それは、2016年のことじゃった。
もう7年前になるんじゃのぅ。
ある日のことじゃった。
おじいさんが、BULL SHIT JOBS から帰ってくると
英国方面から、大きな箱がどんぶらこーどんぶらこー、と流れついておったんじゃ。
哀れなものじゃのぅ。
幸せに暮らしておった。
ところが、じゃ。
ある日のこと、
はて。これはもしや…
FC-6800 クランクは、Cinelli Stratofaster に付け替えられてしもうた。
生木を裂くような仕打ちじゃ。
Experience と仲睦まじく暮らしておったのにのう。
まことに切ないことじゃ。
連れ添ううちに互いの気持ちは溶け合っていった。
そういうものじゃ。
これからは、そんな平凡だが穏やかな日々が続いていく。
皆がそう思うておった。
そんなある日のことじゃ。
また、箱が届いた。
時おり、おかしな噂が聞こえてくることもござった。
対象製造刻印 NE と、NF。
ULTEGRA FC-6800 クランクは取り外され、
Campagnolo CHORUS にその座を奪われてしまったんじゃ。
よもや、自分がFSA のクランクと同じ憂き目を見ようとは。
これが因果応報と申すものでござろうか。
「すまぬ。ワシを許しておくれ…」おじいさんは手を合わせた。
ULTEGRA FC-6800 クランクは気丈にも
「おじいさん、心配しないでください。Experience のもとに帰ります」
「そうしてくれるかのぅ…。すまぬのぅ…。」
ULTEGRA FC-6800 クランクは、傷ついた心を隠して Cinelli Experience を訪ねたんじゃ。
ところが、じゃ。
突然訪ねて驚かせてはいけない。
そっと Cinelli Experience の姿をうかがうと、
なんだか様子がおかしいんじゃ。
ああ。なんということじゃ。
Cinelli Experience は、妹のシマノ105 FC-5800 と暮らしておったんじゃ。
ULTEGRA FC-6800 クランクは、そっと身を引くしかなかった。
このような哀しいことがあってよいものじゃろうか。
それからというもの。
ULTEGRA FC-6800 クランクは、自転車に装着されることもなく
元箱の中でひっそりと暮らしておったんじゃ。
じゃが、ULTEGRA FC-6800 クランクの心には一点の曇りもなかった。
突然の知らせが届いたのは、つい昨日のことじゃった。
いやしくもシマノ家の血を引く者に、そのようなことがあろうはずもない。
「世迷い言を申すでない。」
一途に信じておったんじゃ。
…
突然の知らせが届いたのは、つい昨日のことじゃった。
「これは何?」
クランクは、それでも疑うことを知らなかったのじゃ。
クランクは、それでも疑うことを知らなかったのじゃ。
「なにかの間違いに決まっています。
どうぞ、わたしを箱から出して調べてみてください。」
クランクは、静かに衣を解いてその身を委ねた。
【接着された箇所が剥がれ、隙間や段差が発生する可能性がございます】
世界が、音を失った。色を失った。
クランクにはもう、何も聞こえなかった。何も見えなかった。
その背後では、日本の製造業の品質神話が、音を立てて崩れていった。
ー 了 ー
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